飲食店、百貨店、美容室など、日々お客様と向き合うご商売であれば、その大小こそあれど必ずといってあるのがクレーム。万が一、誤った対応を行うとお店の評判を損い、売り上げ低下などの負の連鎖を生み出すことにも繋がります。 あなたのお店では、なぜクレームが発生するかの理由を正しく理解し、適切に対応できていますか?
ここでは、店舗ビジネスに従事している方であれば感覚的に理解している”クレーム”について、その発生原因から解決のための重要な考え方や応対テクニックについてお答えします。
クレーム対応がうまく行えていない方、またスタッフ教育に気苦労している店舗経営者や管理者の皆さんは今後の応対力向上にお役立てください。ではいってみましょう。
1. そもそもクレームってなぜ発生するの?
頻繁にクレームのあるお店からすると、それ自体が当たり前の悪しき習慣になってしまい、その発生原因について考えることを忘れてませんか?
筆者も学生時代は居酒屋でのアルバイト経験もあります。例えば、飲食店に寄せられるクレームには次のようなものが一般的ではないでしょうか。
- 料理に異物が混入してしまった
- スタッフの接客態度が悪い
- 料理やドリンクの提供時間が遅い
- 注文や提供するメニューを間違えた など
実際これらがクレームの発生理由であることは間違いないかと思います。ただ、ここで重要なことは、『クレームとは、自分の期待値よりも商品・サービスの品質が下回った時に発生する』ということ。
サービス業に関してみれば、お店に来店されるお客様は何らかのサービスを受ける対価としてお金を払っています。
カフェであればコーヒー1杯の料金、居酒屋であれば生ビールに支払うお金などですね。仮にコーヒー1杯¥500だとすれば、¥500を支払えば、お店で一息つけるのはお客様にとって当然の権利でしょう。
ただ、ここで考えるべきは、値段だけみれば単にコーヒー1杯¥500の価値しかありませんが、その¥500を支払う側には目には見えないお店や商品、サービスに対する期待値が含まれているという事です。
例えば、あなただったら次のA店とB店のどちらに気持ちよく¥500のコーヒー代を支払いたいと思いますか?
- カフェA店
- 気持ちのよい自然な接客をするスタッフ
- 店内はしっかりと清潔感が保たれている
- 隣のお客さんとのスペースに配慮した誘導
- 商品の提供時間も素早い
- カフェB店
- 乱雑な言葉使い
- スタッフ同士が大声で雑談している
- おしゃれな空間デザインだがテーブルや床の汚れが目立つ
- 商品の提供が遅い
同じ料金なら圧倒的にA店に通いたいと思う方が多いのではないでしょうか。人は無意識のうちに、その商品やサービスの品質を捉え自分が満足するための”期待”をしている生き物なのです。
2. クレーム対応を行わなければいけない理由
誰だって好んでクレームを受けたい人はいません。じゃあ、クレーム対応って行わなければならないのでしょうか。
その答えは「YES」です。
ましてやビジネスとしてお店を展開されているなら尚更です。クレームに対してどう向き合っているかには、企業やお店のスタンスが表れます。
時には、運悪く悪質なクレームを受ける場面もあるかもしれませんが、お店としてあるべき姿は”真摯な対応”を基本とすることです。
具体的にクレーム対応に力を入れる必要性として、次の2つの理由を添えます。
①お店の信用・評判を落とさないため
言うまでもありませんが信用や評判の失墜は、そのまま客足や売上の低下につながります。現代社会では良くも悪くもインターネットの普及からSNS・口コミで即お店の評判が拡散されてしまいます。一人のお客様のクレーム対応をおざなりにすることが、経営不振への引き金にならないようしっかりとした対応を心がけましょう。
②商品やサービスの品質向上のチャンス
クレームの多くは店にとって耳の痛くなる内容がほとんどです。前述したように『クレームとは、自分の期待値よりも商品・サービスの品質が下回った時に発生する』ものです。
ここでのポイントは、お客様からのクレームをしっかり真摯に受け止め改善することできれば、今後よりお客様の期待に応えられるお店作りに発展していけるのです。クレームを単なる苦情として処理するのではなく、お客様からお店に対する期待やアドバイスをもらったのだと捉えるようにしましょう。
3.クレームを解消するための応対の鉄則
あなたのお店では適切なクレーム対応はできていますか?
クレームが発生する理屈が分かっても、実施にどう対応するかがわからなければ意味がありません。
先に言いますが、クレーム対応が良いと、お店に対するマイナスな印象をプラスに転換することも可能となります。事実、クレームをきっかけにより良い関係構築に至るケースはビジネスシーンではよくあることではないでしょうか。
お店の規模や業態によって、対応の仕方は様々ですが、対人コミュニケーションにおける応対の鉄則は共通しています。
ここでは、コミュニケーションの取り方の基本をお教えします。ズバリ応対の鉄則は、「謝罪」と「同調」、この2つだけ。
この2つが欠けた応対ではクレーム解消に至ることはないと思ってください。一見「そんなことか」と思われがちですが、こういった基本を100%徹することができている方って少ないものです。
なぜ謝罪が必要か?
どんな理由があるにせよ、苦情の真っ最中のお客様は、必ずその不満を口にし、怒っているケースが多いもの。
よくよく耳を傾けていくと実はお店側には非がないケースも少なくありません。お店からすれば、自分らに非がないのに下手に謝罪したら、分が悪くなる!なんて考えてしまいがちです。中には悪質なクレーマーもいますので、このことはあながち否定はできません。
ここで指す謝罪とは、内容はさておき「お客様を不快な気持ちにさせた事に対して謝罪する」ということです。言い換えるのであれば「部分謝罪」と捉えてください。
<悪い例>
店員「こちらは、すべて私たちの責任です。申し訳ございません。」
(※クレームに至った経緯や詳細を把握する事なくこのように全面的に非を認めるのはおすすめしません)
<良い例>
店員「ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません。」
大切なのは、謝罪の意が相手に伝わる事です。お怒りの最中の相手とは感情的になっている場合が多いです。この状態の相手に理論で論破してしまう事は厳禁です。仮にそれが正論だとしても、クレーム解消に至る事はないでしょう。
まずは謝罪の言葉を用いて、相手の不平・不満が出し切られた状態を目指すのがコツです。また感情的な相手には感情的に向き合うことも大切です。
中には、途中で自分が間違ったことを言っているとわかっているクレーマーもいます。その人にとっては、理屈ではなく、ただただ「すいません」の一言だけが絶対的な効果を発揮することも多いです。
逆に理屈でクレームを述べてくる相手には、ある程度筋道の通った理論的な対応が必要となります。
今、相手のタイプや状態が「感情的なのか」「理論的なのか」を冷静に判断し、自分がとるべきスタンスを適切にチョイスできるとよりクレーム解決率が高まってきます。
もう1つ大切なことが「同調」です。
近い意味合いのものとして、「傾聴」があります。クレーム初期段階では、相手の話にしっかり共感している様子を示す必要があります。相手の不満を出し切らせるためには、相手の会話を持続させ”引き出す”ことが非常に重要となります。営業理論では、ヒアリングに位置するものです。以後どんな解決策を提示するかもこのヒアリングがあってこそ。
同調には、相手の話の要所要所で、適切に相づちや合いの手を入れることが求められます。
「はい」
「ええ」
「そうなんですね」
「おっしゃる通りです」など
またこれらには、先程の「謝罪」を組み合わせることでより自然なヒアリングが行えるようになります。
相手の不満を出し切らせるためには、ある程度時間を要す場合もありますが、焦らず忍耐強く応対しましょう。相手の話を遮って意見することは絶対にNGです。忍耐の先には、「もう不満を出し切ったという状態」が待っています。ここに行き着くまで、落ち着いて流れを作っていきましょう。
ちなみに、「もう不満を出し切ったという状態」かを判断するサインの一例は以下の通りです。
「〜。で、どうしてくれるんだよ?」
自分の言いたいことを言い切った後には、必ずお店に対して何らかの答えを求める発言がきます。相手も解決を求めている状態となりますので、ここでようやくクレーム解消のための具体的な提案(お店としてどう対応するか)をお伝えする段階に来たと判断しましょう。
4.クレームを未然に防ぐための仕組み作り
ここまで述べたようにクレームは必ずしも悪いものではありません。しかし、理想はクレームゼロのお店作りではないでしょうか?
これまでの経験や周囲の意見から、あらかじめ予測できるクレームもあるかと思います。そんな方であれば、未然にクレーム発生を防げる方法、また、その予備軍を検知できるような仕組み作りを練っていくとより健全なお店作りにつながっていきます。
仕組み作りの一例として
・応対マニュアルの作成による応対品質の均一化
・スタッフ間でのロールプレイングでトレーニング
最後に
従業員一人ひとりのクレームに対する考え方や応酬話法を理論的に改善することは、対応スキルの向上はもちろんのこと、二次クレームへの発展阻止や、潜在的な”クレーム予備軍”を未然に防ぐ助けになることでしょう。
また、これらはクレーム対応がうまくできないことで悩んでいるスタッフのモチベーション低下や離職率の軽減にも寄与します。特にスタッフの人材教育を任されている店長やマネージャーは、感覚的に教えるのではなく、理論立てて教えてあげることが教わるスタッフ側の納得感につながることを認識しておきましょう。